2007年10月8日月曜日

第4回日本難病医療ネットワーク研究会

去る10月6日、7日の2日間、大分県別府市にて第4回日本難病医療ネットワーク研究会が開催されました。

当院より以下の2題を発表させていただきました。

1.ALS患者の夜間ナースコールへの対応の検討
○深川知栄(1),山本幸恵(1),原田幸子(2),土井良弓子(1),島奈美枝(1),西川志帆(1),安永悦子(1),小山清美(1),菊池仁志(2)
医療法人財団華林会 村上華林堂病院(1)看護部 (2)地域医療連携室(3)神経内科 

2.ALS患者に対するリハビリテーション満足度調査 
~ 患者・病棟スタッフ・リハビリテーションスタッフの視点 ~
○北野晃祐(1),菊池仁志(2) ,山口良樹(1),棚町久美(1),田代博史(2),深川知栄(3) 
医療法人財団華林会 村上華林堂病院 (1)リハビリテーション科(2)神経内科(3)看護部

抄録
1.ALS患者の夜間ナースコールへの対応の検討
【背景】当院では平成18年12月に神経難病病棟を立ち上げ、神経難病患者の入院を積極的に行っている。神経難病患者なかでもALS患者に関しては、夜間のナースコールの頻度が極めて多く、さらにはコミュニケーションが困難であることが、入院受け入れ時の大きな問題点となる。
【目的】 神経難病病棟におけるALS患者の夜間のナースコール回数とケアに要する時間を調査し、ALS患者の要求事項をとそれに対する看護師の対応を検証することで、神経難病病棟におけるALS患者に対するケアの向上を図る。
【方法】 神経難病病棟のALS患者に対して、夜間 17:00~8:00までのナースコール回数とケアに要する時間、訪問回数に関するフローシートを作成した。それを用いて、患者側のナースコール時に訪室した回数(受動的訪室回数)とナースコールが鳴らなくても積極的に看護師側から病室に訪室した回数(能動的訪室回数)、さらには、一日あたりのナースコールの回数とケアにかかる時間を調査し、相関解析により比較検討した。<対象>症例① ALS患者、70才代女性 罹病期間2年、NIPPV装着中、入院期間6ヶ月以上。症例② ALS患者、60才代女性 罹病期間6年、入院期間2週間、意思伝達装置使用中
【結果】症例① 調査期間29日間(1)ナースコール回数(=看護師の受動的訪室数):総回数414回 一日平均14.3回(最小1回、最大35回)、看護師訪室回数:総訪室回数634回、一日平均訪室回数21.9回(最小11回、最大37回)、能動的訪室回数:総会数220回、一日平均訪室回数7.6回(最小0回、最大31回)。夜間ナースコール回数と看護師の能動的訪室回数の相関解析では、相関係数r=-0.34と負相関する傾向にあり、看護師側から積極的に訪室することでナースコール回数が減少することが示された。(2)ナースコール1回あたりの平均滞在時間(ケア時間)(1-13分、平均4.5分)とナースコール数の相関解析(調査機関14日)では、相関係数r=-0.69と負の相関を示し、滞在時間が長いとナースコールの回数が少なくなることが示された。要求事項は、NIPPV操作、排便、食事に関するものが多かった。症例② 調査機関11日(1)ナースコール回数:総回数264回、一日平均24回(最小17回、最大45回)、能動的訪室回数:総回数26回、一日平均2.4回。夜間ナースコール回数と看護師の能動的訪室回数の相関解析では、相関係数r=-0.53と負の相関を示し、看護師側から積極的に訪室することでナースコール回数が減少することが示された。(2)ナースコールの要求事項に関しては、吸引および体位変換が主な要求事項であった。症例①、②ともナースコール回数にかかわらずケアに要した総時間数に大きな差は見られなかった。
【考察】本研究より、夜間帯で看護師側から積極的に訪室すること、さらに看護師のケアの滞在時間を十分にとることでALS患者のナースコール回数が減少することが示された。ALS患者の夜間帯の看護師による積極的な訪室と十分なケアを心がけることで、看護師側のペースを保ちながら効率的にALS患者に対するケアができると考えられる。

2.ALS患者に対するリハビリテーション満足度調査 
【背景】 当院では平成18年8月以降,神経難病患者に対する専門的な診療を行っている.なかでもALS患者に関しては,平成18年8月から平成19年5月にかけて30名が神経内科を受診し,内26名に対して理学療法・作業療法・言語聴覚療法・摂食嚥下療法・訪問リハビリテーションを実施してきた.ALS患者は,難治性・進行性であるが,リハビリテーション療法の重要性は認識されている.しかしながら,ALSのチーム医療における医療スタッフや患者に対する個々のリハプログラムの有用性に関する詳細な検討は少ない.
【目的】 ALS患者に対するチーム医療において,リハビリテーションプログラムの必要性を検証し,より満足度の高いリハビリテーション療法の提供を目指す.
【対象と方法】 当院医療スタッフおよびALS患者に対して,以下の点に関してアンケート調査を施行した.①当院リハビリテーション科スタッフ(PT 11名,OT 7名,ST 2名)に対し,ALS患者に実施したリハビリテーションのアプローチを調査.②当院障害者等一般病棟看護師15名に対し,ALS患者に必要と考えられるリハビリテーションプログラムを調査.①,②に関しては,任意の回答を集計し,③ALS患者(もしくはその家族)20名(平均59.6±18.4歳)に対して①で抽出されたリハビリテーションプログラムの中で満足度が高いもの3つを選択していただいた.これらの結果を通じて,患者・病棟スタッフ・リハビリテーションスタッフの各方面からリハビリテーションプログラムの必要性の検討を行い,患者満足度の高いプログラムを検討した.
【結果と考察】 ①リハビリテーション科スタッフに対する調査では,ALS患者には,関節可動域訓練(ストレッチ)と筋力運動がほぼルーチン的に実施されており,二次的廃用の予防を図るのに重要なプログラムとの共通の認識があった(施行プログラムの合計246の内,95プログラム:39%).また,ホームプログラムの指導も重要視されており(15/246プログラム:6%),退院後の継続したリハビリテーションの重要性を示していると考えられた.②看護師に対する調査では,ADL訓練に対する要望が高かった(全28回答項目の内,15項目:54%).これは,リハビリテーションによりADLの向上を行うことで,看護負担や介助量の軽減を期待しているものと思われる.③ALS患者20名中14名から得た患者満足度調査では,ストレッチや関節可動域訓練(回答プログラムの合計41の内,16プログラム:39%),筋力運動(8/41プログラム:19%)への満足度が高く,筋萎縮や筋線維束攣縮・拘縮など,目に見える問題に対する直接的なアプローチへの期待が高いと考えられた.
【結論】 アンケート調査の結果より,それぞれの職種およびALS患者が,リハビリテーションに期待する共通点や相違点を明らかにすることができた.その結果,ALS患者では,関節可動域訓練や筋力運動に基づくADLの向上が重要と考えられた.今後はさらに,多専門職種によるチーム医療の中でのリハビリテーション療法のあり方を検証し,より患者満足度の高いリハビリテーションを供給していくことが重要である.