2010年1月17日日曜日

JALSA 1月号

日本ALS協会機関紙 JALSA 2010年1月号に当院の取り組みが紹介されました。

JALSA 79号 P6-7 2010年 

「ALS 患者さんの在宅療養をいかに支えていくか」
‐レスパイト入院を中心とした病院主導による総合的在宅サポート体制の構築‐
医療法人財団華林会村上華林堂病院副院長・神経内科部長菊池仁志

 ALS 患者さんの診療は、そのケアの困難さより、一般病院では対応困難であるため、従来は国立療養所などの公的機関により長期療養という形で支えられてきました。しかしながら現在、国立療養所は統廃合により減少の傾向にあり、実際にALS 患者さんを支えていく民間病院の役割が求められてきています。ただ、民間病院では、神経内科専門医の配置は十分ではなく、専門性の高い神経難病診療を十分にできる施設は限られており、さらに、病状の進行に伴う濃厚な看護が必要なため、看護スタッフの疲弊が生じ、長期的な入院療養は困難となります。そのため、多くのALS患者・家族は行き場を失い、在宅での過重な療養を強いられることとなります。そのような患者・家族を救済するためには、在宅での家族介護負担の軽減や患者さんの健康管理のために短期的に入院してもらうレスパイト入院を活用したサポート体制が必要となります。そこで当院では、平成18 年12 月よりALS を中心とした本格的な神経難病診療に取り組み、ALS 患者さんの在宅療養を長期的に支えるための総合的サポートシステムの構築を始めました。当院は福岡県福岡市西区に位置し、病床数160 床(一般病床88 床、亜急性病床16 床、障害者施設等一般病床36 床、ホスピス20 床)の内科・外科・眼科・整形外科を中心とする総合病院です。神経内科に関しては、神経内科常勤医3 名および非常勤1 名の体制で、市内に長期療養型の国立病院機構が存在しないため、主に大学病院などの基幹病院からの神経難病患者の受け皿としての役割を担っております。当院の神経難病診療指針としては、1.神経難病患者は、医療行為だけでは多くの問題は解決できないため、心理的・社会的サポートを固めるべく多職種間でのチーム医療を進めていく。2.初期診療から病状の進行過程に関わる事で、患者さんの人間性や心理状態を把握し、メンタルサポート・リハビリテーションを通してADL やQOL の向上に努める。3.可能な限り在宅への復帰を目指し、家族と一体になったサポート体制を構築する。4.在宅診療を中心とした長期療養を行いながら可能な限り末期まで診療する。5.介護者の負担軽減も考えたレスパイトケアやメンタルサポートを推進する。6.医療スタッフへの過剰負担の軽減に努め無理のないサポート体制を推進する。以上のことを基本とし、神経難病病棟の医師、看護師、リハビリスタッフ、MSW、臨床心理士、栄養士、薬剤師ならびに、訪問診療医(神経内科専門医・内科医)および在宅難病コーディネーター、ケアマネージャー、訪問看護師を中心とするチーム体制を通して、対症療法、リハビリテーション、心理サポートを中心とした効率的な診療を在宅・入院を通して行っております。また、遠方にお住まいの方に関しても、他施設の往診医・訪問看護ステーションとの連携体制をとってサポートしております(図1)。レスパイト入院に関しては、平成19 年5 月より在宅診療部を立ち上げ、レスパイト入院のシステム化を開始いたしました。そこで、神経難病担当医師、神経難病担当医療相談員、神経難病病棟師長、在宅難病コーディネーターが中心となって在宅診療部と神経難病病棟とを連携し、全入院患者に対して患者ごとに在宅療養と入院診療を包括的に管理することで、ALS を中心とする数多くの在宅神経難病患者さんの受け入れが可能となりました。その実績としては、平成19 年7 月より平成21年9 月までの約2 年間で、総数68 名、延べ721 回、月平均27 名の患者さんが神経難病病棟へのレスパイト入院を行っております。特にALS に関しては、当院に関わっている約70 名のALS 患者さんの内、30 名、延べ268回のレスパイト入院を行っております。その他の神経難病に関しては、パーキンソン病17名(延べ236 回)、多系統萎縮症9 名(延べ83 回)、脊髄小脳変性症3 名(延べ31 回)、多発性硬化症2 名(延べ33 回)、その他8 名(延べ70 回)であり、やはりALS 患者さんのレスパイト入院がいかに必要とされているかが分かります。また、当院在宅診療部では、本支援システムを通して、平成19 年5 月より平成21 年9 月までに神経難病患者22名、内ALS 14 名と数多くの在宅ALS 患者さんの診療ができるようになりました。
 当院では、大学病院などの基幹病院と連携し、できるだけ早い段階でALS 患者さんを紹介していただくようにしていただいております。そして、病初期から在宅診療を基盤とした計画的レスパイト入院を繰り返すことで、患者・家族との信頼関係が構築されるとともに、家族も診療スタッフの一員として参加しているという意識を持てるようになります。特に、レスパイト入院期間に関しては、重症度に応じて2 週間から1ヶ月の入院、最低1ヶ月以上の在宅療養というサイクルを繰り返すことで、介護者であるご家族と病棟スタッフで介護負担を分担していきます(図2)。そして、あらかじめ入・退院日を決めることで、患者・家族が病院に支えられているという安心感を持ち、ご家族が計画的に休息できるようになります。さらに、重症の患者さんが集中しないように入院計画を組むことで、医療スタッフの負担軽減が図れ、数多くの神経難病患者さんを看ることができます。レスパイト入院中は、患者さんの全身状態の管理、リハビリテーション(在宅での生活を目標として、リハビリテーションスタッフが患者さんの家屋調査を行い、家の構造に基づいたリハビリテーションを推進します)、メンタルサポート(カウンセリングや家族療法など)、胃ろう造設、NIPPV の導入、気管切開、人工呼吸器の装着、療養環境の調整などを行うことで、長期的な在宅療養に対応していきます。また、在宅での急な病状悪化の際も、神経難病病棟で積極的に入院を受け入れ、コミュニケーションが困難な患者さんにも、日頃からレスパイト入院で接している病棟スタッフにより、迅速な対応ができるようにしております。レスパイト入院型の病棟の問題点としては、ALS 患者さんの長期受け入れが困難であることが挙げられますが、将来的に在宅療養が困難となる可能性がある患者さんに対しては、早い段階から長期療養病院と併診という形をとり、柔軟な対応ができるようにしています。
 病院主導による計画的レスパイト入院を軸とした在宅神経難病患者支援体制を構築することで、ALS 患者さんを中心としたより多くの神経難病患者・家族の救済が可能となりました。当院での試みが、全国のALS 患者さんの救済の一助になれば幸いです。 

2010年1月8日金曜日

廃用身

老人介護をモチーフにした小説は多いですが、久坂部羊の「廃用身」は異色で考えさせられます。
脳梗塞などで麻痺し、回復困難な手足を切断することで、体が軽くなり、介護負担軽減が図れ、本人のQOLも向上する。排泄処置の困難さを軽減するためにストーマを作る・・・

「廃用身」 Amazonより・・廃用身とは、麻痺して動かず回復しない手足をいう。漆原医師の究極の医療「Aケア」とはそれらを切断することだった・・「廃用身」とは、脳梗塞などの麻痺で動かなくなり、しかも回復の見込みのない手足のことをいう医学用語である。医師・漆原糾は、神戸で老人医療にあたっていた。心身ともに不自由な生活を送る老人たちと日々、接する彼は、“より良い介護とは何か”をいつも思い悩みながら、やがて画期的な療法「Aケア」を思いつく。漆原が医学的な効果を信じて老人患者に勧めるそれは、動かなくなった廃用身を切断(Amputation)するものだった。患者たちの同意を得て、つぎつぎに実践する漆原。が、やがてそれをマスコミがかぎつけ、当然、残酷でスキャンダラスな「老人虐待の大事件」と報道する。はたして漆原は悪魔なのか?それとも医療と老人と介護者に福音をもたらす奇跡の使者なのか?人間の誠実と残酷、理性と醜悪、情熱と逸脱を、迫真のリアリティで描き切った超問題作。******

2010年1月1日金曜日

謹賀新年

あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。